2024.01.05

(Abstract) Incoherence in the policy making process of the renewal requirements for the national certification of JSL teachers

こちらで話題にした拙稿の要旨。

This article examines the incoherence that emerged in the policy making process concerning the de-jure, national certification of Japanese-as-a-second-language teachers, which will commence in 2024. The expert committee under the Council for Cultural Affairs resolved and announced in March 2020 after due public consultation that certified teachers would be required to complete continuation training and renew their certification every ten years. The renewal requirement constituted one of the major changes from the de-facto certification that has been in place to date, and bore down upon JSL teachers and other stakeholders. However, the requirement was withdrawn in September 2021, only 18 months after the expert committee's resolution. The undoing of the earlier, determined policy decision did not only upset the stakeholders' anticipation on the forthcoming certification, but also undermined long-term predictability in the policy domain. From an analysis of the meeting records of the expert committee and other relevant bodies, it is found that the introduction of the renewal requirement was debated only briefly, and that the withdrawal of the requirement lacked substantive justification for overturning the decision that was made only 18 months before. The policy making concerning the renewal requirement, as a whole, was poorly informed. In addition, it is also considered that several factors, the political context at the time in particular, which are external to the committee-level decision making, significantly constrained the scope and timeline of the committee, which resulted in the impetuous decision and subsequent withdrawal.

(2024-01-06追記) ちなみに、掲載先の論文誌には要旨がなかったので、こちらは業績データベース用に別途かいたものです。

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2023.12.31

ひつじ書房ウェブマガジン『未草』での批判にたいする応答

ひつじ書房のウェブマガジン『未草』に、龍谷大学名誉教授の田尻英三さんの「外国人労働者の受け入れに日本語教育は何ができるか」という連載記事があります。この第47回の記事「現在までに決まった日本語教育の形」のなかで、拙稿「日本語教師の資格創設における更新講習導入の「迷走」—政策形成の検証—」(『社会言語学』XXIII号掲載)が「問題を感じている論文」としてとりあげられ、その内容について批判をいただきました。

【参考】

  • 「日本語教師の資格創設における更新講習導入の「迷走」—政策形成の検証—」『社会言語学』XXIII号(「社会言語学」刊行会)
    https://syakaigengo.wixsite.com/home/ (既刊号の目次がみられます)
    (2024-01-05追記) 英語要旨はこちら
  • 「外国人労働者の受け入れに日本語教育は何ができるか/第47回 現在までに決まった日本語教育の形」『未草』(ひつじ書房ウェブマガジン)
    https://www.hituzi.co.jp/hituzigusa/2023/12/21/ukeire-47/

拙稿に目をとめてくださったことに、著者として大変ありがたくおもいます。また、批判をいただいたことは、自分の論文についてふりかえる大変よい機会でもありました。

いただいた批判には、拙稿の不十分なところに、おもいいたらせられる点がありました。一方で、批判の内容と拙稿の問題設定とが、かみあっていないと感じられる点もありました。そのような批判をうけたままにしておくことは、著者として本意ではありません。また、田尻さんは、拙稿への言及箇所を「上村さんから何らかのご意見があれば、この「未草」で扱います」としめくくっています。批判にたいする著者からの意見をうけつけるという配慮も、ありがたくおもいますし、このよびかけにこたえないでいることは、礼をかくことになるとおもいます。

ただ、論文への批判にたいして、ウェブマガジンの記事の著者と読者という非対称的な関係のなかで応答するということに、わたくしとしては、いささかながらためらいを感じました。そこで、批判をうけた点について、とくに拙稿の筋だてにかんする二つめの問題として指摘されたことについて、拙稿でどのようにかんがえているのか、このブログにしるすことにします。

なお、ここにかかれている内容だけよんでも、なんのことだかわからないとおもいます。関心のある方は、『未草』に掲載された拙稿への批判をご覧ください。

<本題>

■検討範囲・時期の問題

批判では、拙稿について「日本語教師の国家資格化は、上村論文にも出て来る二つの有識者会議で詳細が検討されたのです。まずは日本語教師の国家資格化の具体化を検討することがその時の目標で、国家資格が決まっていない段階で更新講習を検討することはありえません。」との指摘をうけています。この指摘が、国家資格がきまっていない段階で、更新講習の「内容」を検討することはありえないということであれば、そのとおりだとおもいます。

しかし、拙稿は、そのことを問題にしていません。問題にしているのは、国家資格の維持要件としての更新講習というアイデアが、どのような形で、日本語教師の資格創設にかんする審議・検討のなかにとりいれられ、そして、とりさげられたのかです。有識者会議までをみなければならないという点は、わたくしもおなじ理解です。そこで、拙稿では、2020年3月の国語分科会報告にいたる段階だけでなく、ご指摘にもある、その後の有識者会議の段階の両方の審議・検討の内容から、政策過程をみようとしています。

■「迷走」という表現

審議会プロセスと、その後の有識者会議のとらえ方について、田尻さんとわたくしのあいだには、かなり相違があるようです。あるいは、それが拙稿へのご批判につながっているのかもしれません。

わたくしも、ことなる分野ながら、法律制定に直結する審議会プロセスに専門委員としてかかわった経験があります。その経験からすると、委員による審議と、関係者へのヒアリングや、パブコメをへて、審議会プロセスで決定したことを、審議会プロセスをはなれた具体化の会議において、くつがえすというのは、かなりイレギュラーな事態としてとらえるべきだと感じます。

また、政策形成にあたっては、対象となる事業分野における長期的な予見可能性をたかめることが期待されます。拙稿でとりあげた更新講習をめぐる事態は、イレギュラーなものであることにくわえ、日本語教師の資格のあり方にかんして、予見可能性をそこなうものでもあったわけです。

現実問題として、すべてのことが審議会プロセスをとおるものでないことは理解しています。審議会プロセスを起点とせず、行政部門におかれた有識者会議や懇談会が主導してまとめられたアウトプットが、主要な施策づくりにむすびつくことも、すくなくないとおもいます。また、審議会プロセスできまったことであっても、その内容に重大な瑕疵があるなら、あらためる機会が確保されるべきだとも、おもいます。

しかし、更新講習をめぐる一連の事態については、審議会プロセスで決定された方針が、その決定を与件として具体化を検討するはずの段階で、うわがきされてしまい、また、日本語教師の資格制度にかんする長期的な予見可能性をそこなうものであったわりには、更新講習の導入をめぐる決定や、その後の撤回にあたって、方向感のある審議や検討がみられませんでした。その点を、拙稿では政策形成の「迷走」と表現しました。

田尻さんからは「小委員会で検討事項とされた更新講習が検討されなかったからと言って、それを「迷走」と言えるのかという点に問題を感じています」というご批判をいただきました。しかし、拙稿では、そこをさして「迷走」といっているわけではありません。この点については、上述の拙稿の問題設定が、つたわっていないのではないかとおもいます。著者の力量のなさ故のことであれば、まことにもうしわけのないことです。

■学歴要件の位置づけ

田尻さんは拙稿への批判のなかで、2020年3月の国語分科会報告の内容がくつがえされたのは、更新講習だけでなく、学歴要件も同様であると指摘しています。拙稿では、学歴要件についてはとりあげませんでした。しかし、学歴要件についても、審議会プロセスの決定がくつがえされたということをあわせてかんがえるなら、なおのこと、2020年3月の国語分科会報告とは、一体なんだったのかということを、とうべきだとおもいます。そのような決定を、なぜ、あのタイミングでおこなうことになったのかが、政策過程の観点からは、たいへん興味ぶかいことです。

この点については、拙稿でものべたとおり、政治部門により、スケジュールが外挿されたことがおおきな要因であったというのがわたくしの理解です。もちろん、それ以外の要因があるかもしれません。そこまでふみこんでいないことは、拙稿の課題として本文中にもしめしているとおりです。

■その他

拙稿の問題点の一つめとして、先行論文について不勉強であることが指摘されています。拙稿では、先行研究の類型をしめし、そのなかでの拙稿のたち場をしめすことにとどまっています。拙稿の先行研究が網羅性にかけているといわれれば、その批判はあまんじてうけざるをえません。

</本題>

以上が、『未草』での批判への、わたくしからの応答です。おもに問題の二つめとして批判をうけたことについて応答したものですが、そのなかに、いくつかの論点がふくまれていましたので、それぞれの論点について、拙稿でどのようにかんがえているのかをのべました。

ここにしるした内容は、いずれも拙稿でのべた内容をくりかえす以上のものではありません。とはいえ、そのような説明が必要になるということは、裏をかえせば、拙稿には、論文に期待される明瞭さがかけていたということなのだとおもいます。その点についても、ご批判の一部としてうけとめ、著者としては、みずからをいましめる次第です。

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2022.04.03

GK64Xは親指シフトに使えるか

まえから気になっていたEmpomaker Epomaker GK64Xを、しばらくまえにかったので、親指シフトにつかえるか、あれこれためしてみました。その結果。

Img_3587

その1。3分割したスペースバーの位置はよい。親指左(無変換)、親指右(変換)、空白の位置におおむね対応する。この配置でつかいたい人にはおすすめ。個人的には、専用キーボードでないばあい、親指左(無変換)、空白、親指右(変換)でつかいたいが、そうすると右手が窮屈。

その2。スペースバーは、デフォルトだと分割後もおなじキーコードをおくる。これを変更するには、専用の設定ツールが必要。汎用のキーリマッパーでは、変更不可(のはず)。

その3。専用の設定ツールでえらぶことができるのは、英語配列にある文字キーと特殊キーだけで、日本語配列にしかない無変換や変換が、設定ツールの選択肢にない。そのため、親指シフトのエミュレーションの設定には、ふた手間必要。

その3-2。まず、専用設定ツールで、普段つかわない特殊キーをふたつ選んで、スペースバーにわりあてる。つぎに、親指シフトのエミュレーターで、それぞれを左右親指役に設定する。macOSのKarabiner Elementsは、これでいける(ただ、設定ファイルを手がきでなおす必要がある)。WindowsならDvorakJがつかえる模様(未確認)。

その4。(キーボードをとりはずしたりして)電源がきれてしばらくすると、キーわりあての設定がきえる。そのばあいは、設定ツールを起動して、設定しなおさなければならない。不便。

その5。キータッチ(赤軸)は、かるくてよい。ただ、個人的には、打鍵があさいのが難。汎用キースイッチをつかっている以上、どうしようもないとおもうが、このみの問題なので、気にしない人もいるかもしれない。

その6。Fnキーのわりあてが変更できないのは、そういうものだから、しかたないとして、それがスペースバーの右隣にあるのが難。GK68Xのように、スペース、Menu、Fnとならんでいれば、つかいやすかった。ただし、これもこのみの問題かも。

その7。平面配置のキーボードをかたむけただけなので、キートップの角度や、押下角度がきもちわるい。平面配置のキーボードをかたむけただけのデザインによる押下角度もさることながら、キートップの形状が凹円柱ではなくて、凹球面になっているので(ようは、キートップの中央がくぼんでいる状態)、打鍵時に指にひっかかりをかんじる。

その8。おもい。みた目がコンパクトであることからすると、ずっしりおもい。

その9。英語配列としてつかうにしても、日本語配列とみなしてつかうにしても、GK64Xだとキーが不足気味(わりあて変更でできないこともない)。また、シフトキーの幅(1U)がせまい。

その10。そこまでして、親指シフトキーボードとして常用したいかというと微妙。ただ、GK64X(というか、Epomakerの製品全般)は、よくかんがえたら、RBoardとおなじキートップの配色があるので(毒どくしい、赤色のキーがあるところとかも)、あのころの気分を味わうにはよいかもしれません。

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2020.05.04

憲法記念日なのにヒドい

しばらくFacebook断ち(といっても、願掛けではなくて、デトックス的なもの)をしているので、めずらしくブログに書いてみます。

2020年5月3日の日本経済新聞朝刊のコラム「春秋」に、映画監督の黒沢明が、かつて撮影のために、大胆にも民家(もちろん他人の家)を一部取り壊し、その後、元通りに修復したというエピソードが紹介されていました。そして、仮に一時的に被害や混乱を生じさせる決断であっても、目的を遂げた(もちろん、保障や復旧といった十分な手当がセットで)という映画監督の意志と行動力を、昨今のコロナウィルス感染拡大への対応に重ねていました。

それはいいとして、コラムは、休業要請に応える(応えざるをえない)企業や従業員への十分な手当がなされているだろうかという問題提起にあたり、「営業の自由とか私権の制限など大上段の議論はともかくとして」と続きます。これも、経済活動の現場の混乱や困窮ぶりを憂えてのことでしょう。とはいえ、仮にも憲法記念日の朝刊の1面コラムでもって、憲法的な権利はさておき、というレトリックを持ちだす日経新聞の見識を疑います。

まあ、経済紙なんてそんなものなのかもしれません。

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2018.08.19

バヌアツの公衆電話……がない

久しぶりの更新。

Img_2450_2アジア太平洋インターネットガバナンスフォーラム(APrIGF)が開催されたバヌアツで公衆電話……がなかった写真。電話機が撤去されて、囲いだけが残ったと見られる状態でした。"Telecard"と書かれた文字は、公衆電話という意味だったのか、「テレホンカード使えます」という意味だったのか。

ITUの統計をみると、2000年ごろに固定電話の人口比加入数が3.4あたりで頭打ちになっているようなので、まあ無理もないことか。好事家ものずきにとってはつまらない時代になりました。

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2017.12.17

スイスの公衆電話(2)

Img_2155_810年ぶり3度目のスイスの公衆電話。以前も写真を撮ってますが、新型らしいのがあったので撮影しました。ピンクの受話器にメタリックの本体というベースは継承しながらも、卵型のフォルムに大型の液晶ディスプレイを配してます。国際電気通信連合(ITU)の本拠地ですから、そう簡単に公衆電話か消えてしまっては困ります。

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2017.03.18

デンマークの公衆電話(2)

Img_1699_3乗り継ぎで立ち寄ったことはあったけど、滞在したのは初めてだったコペンハーゲンで公衆電話を探しました。北欧の携帯電話普及率を考えると当然ですが、街中では公衆電話をまったく見かけず、あちこち探し回ってコペンハーゲン中央駅でようやく発見。

と思ったら、10年前に乗り継ぎで空港内をうろついた時に公衆電話の写真は撮っていました。しかも、2種類。まあ、せっかくなんで2年半ぶりに更新しときます……>公衆電話ウォッチ

コペンハーゲンでは路線バスの中でも無料の無線LANが使えたことに、驚いたというより呆れましたが(そこまでしてくださってありがたいけど、地元の人にはどんなメリットがあるのかという意味で)、そこまでネットが身近に迫っていると、公衆電話の出る幕はないですね〜。

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2014.10.28

ハワイの公衆電話

Img_0360bずいぶんと長いこと更新のなかった公衆電話ウォッチ(というか、このブログ自体更新してない。。。)ですが、夏に新ネタを仕入れていたのを思い出しました。

Hawaiian TelecomTelcomの公衆電話です。もともと、GTE系で、Bell AtlanticとGTEが合併してVerizonになった後はVerizon Hawaiiという名前だったようですが、その後ハワイのオペレーションがCarlyle Groupに売られてから、Hawaiian TelecomTelcomという名前になった由。

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2012.11.26

主要政党の政策課題への対応

【12月4日追記】

Imghclust

政権公約、マニフェスト等が公表されたことを受けて、元データ(第46回衆議院議員総選挙-衆議院選挙2012 - 政策比較一覧)が更新されたので、それにそって再度分析しました。今回はクラスター分析でえいやっと政策により政党をグルーピング。それぞれの政策課題について賛成なら1、それ以外(反対、留保、不明)の場合には0とおき、Jaccard係数を非類似度として最長距離法によるクラスタリングを実施した結果が上図。 政策的に近いと考えられる政党が同じ枝に並んでいます。

各政党と主要政策課題の関係

第46回衆議院議員総選挙-衆議院選挙2012 - 政策比較一覧をもとに、各政党が主要政策課題にどのような対応をしているか対応分析で図にしてみた。まだ個別の政策課題について方針が公表されていないところもあるので、今後変わっていく可能性があるけど、何かの参考になるかも。図の左橋に重なって判読しにくいのは、社民党と共産党です。

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2012.10.31

ドコデモFMの障害を機に考える(長文)

【11月2日追記】先日紹介したドコデモFMの障害、結局この長文ポストの数時間後に復旧し始めました。ということで、わたくしの読みは外れました。ただ、今朝確認した段階ではWHOISの情報は有効期限が古いまま。やはり、ドメイン名の更新については、やはり珍しい事態が起きたのではないかと思います。ドメイン名政策の研究なるものをやっている身としては、今回の件、どんな経緯だったのか、やはり興味ありますねー。言い訳っぽいデスが。

昨年スタートしたFMラジオ放送IP同時再送信サービスであるドコデモFMが、先週金曜日(10月26日)から今日で5日間使えない状態が続いています。原因はdocodemo.fmというドメイン名の更新忘れだったようですが、状況を分析するに、もはや「ドメイン名を復活させてください」とお願いして解決する段階ではないのかもしれないなーと思います。となると、docodemo.fmを復活させるよりも、新しいドメイン名を取得して、それに対応したアプリアップデートを配布し直すほうが早いかもしれません。もちろん、ドコデモFMのファンとしては少しでも早く原状復帰してもらいたい気持ちは一杯ですが。

ドメイン名政策の研究をしているドコデモFMの大ファンが勢い余って書いてしまった今回の経緯や背景の分析です。推測に頼った部分も少なくありません。そのことを踏まえてお読みください。

■ドコデモFMとは

ドコデモFMは、スマートフォン向けのFMラジオ放送IP同時再送信サービスである。専用のアプリケーションと、スマートフォンの携帯データ通信や無線LAN通信を利用して、Japan FM Network(JFN)系列約40のFMラジオ局の放送を、広告や時報と一部の番組・内容を除いてほぼそのままの形で聴取できる。

同サービスは、東京FMと同社の子会社のジグノシステムジャパンにより、2011年12月5日に提供が開始された。当初はNTTドコモのスマートフォンだけに対応していたが、現在は携帯電話事業者に関係なく、iPhone/iPod touch/iPad、Android対応端末であれば携帯データ通信または無線LAN通信によって利用できる。初回利用日から31日間は無料で、その後は月額350円(iPhone/iPod touch/iPad)または315円(Android端末)の利用料金がかかる。利用は国内に限られ、海外からは利用できない。

同種のサービスとしてKDDIのLismo Waveがある。Lismo Waveは2011年1月26日にサービスが開始され(月額315円)、ドコデモFMの対象局以外のFM局も聴取できる。また、radiko.jpもラジオ放送のIP同時再送信を行っているが、これは再送信されるのはその地域で受信できる放送局に限定されている。

■障害の内容と経緯

2012年10月26日(金)16時ごろから、ドコデモFMアプリを起動すると、「ネットワークエラー」が表示され、IP同時再送信が聴取できなくなる障害が発生した。同時にドコデモFMのウェブページやメールアドレスも利用できなくなった。

【経緯】


  • 10月26日(金)夕方ごろ、ツイッター上で利用者がドコデモFMアプリが起動しない、などの障害を五月雨式に報告。

  • 10月26日(金)19:14、ツイッターのドコデモFMの公式アカウント(@docodemofm)で、同日16:30頃から19:05頃までの間、ドコデモFMが利用できない状態が発生したが、現在は復旧していると報告された。ただし、ネットワーク環境によっては復旧に時間がかかる可能性があるとも付言された。実際には復旧しておらず、障害は週末を挟んで継続する。

  • 10月28日(日)10:30、サービスの復旧は10月29日(月)の見通しとツイッター上で発表。また、課金済み利用者については何らかの補償をする方向であることを言及。

  • 10月28日(日)11:17、公式アカウントを通じて補償の内容について説明される。iPhone利用者(iPod touch/iPad利用者も同様)については、もともと10月1日から実施中だった月額利用料の割引キャンペーン(350円→85円)を12月27日まで延長すること、Android利用者については、最長12月20日(11月21日以降の初回利用日から31日間無料)まで月額利用料を無料とすることを発表(その後、Android利用者については最長1月2日まで無料にすることを発表)する。また、NTTドコモのコンテンツ決済サービスの利用者については、障害が10月31日正午を超えた場合には11月分の課金をキャンセルできるようNTTドコモと調整する予定であることを発表する。さらに、暫定的な措置としてGoogle Play課金に切り替えた場合、切り替えた日から31日間無料になることを案内する。

  • 10月30日(火)12:23、ツイッター上でドコデモFMの臨時問い合わせ窓口のメールアドレス(info_docodemofm@tfm.co.jp)を公表。

  • 10月30日(火)11:17、サービスが同日11:15の時点で復旧していないとツイッター上で報告。

  • 10月30日(火)21:23、今回の障害の原因が、ドコデモFMで利用していたドメイン名(docodemo.fm)が失効したことであると発表。また、同ドメイン名の利用継続のための申請手続きは10月26日に完了しているが、レジストラの作業が滞っているためにサービスが復旧できないと説明。さらに「同日深夜が復旧の目安だが、確定的なことは言えない」との見通しを示す。

  • 10月30日(火)21:21頃、NTTドコモのコンテンツ決済サービスの利用者はポータル側で課金をキャンセルできるよう調整中であること、Android利用者については無料期間を最長1月2日まで延長することを発表。

  • 10月31(水)17:00現在、同サービスは復旧していない。

なお、ドコデモFMに関する情報提供やサポートはドコデモFM専用のホームページを通じて行われていたが、今回の障害により、ホームページへのアクセスも遮断されてしまったため、サービス提供側にとってもツイッター以外の情報提供手段をもたず、障害関連の情報もツイッターで行われることになった。

■障害の原因

今回の障害は、ドコデモFMのサービス提供に使われていたドメイン名(docodemo.fm)が失効し、ドメイン名からIPアドレスへのドメイン名解決ができなくなったことが直接的な原因である。

.FMとはミクロネシア連邦(Federated States of Micronesia)に対応した国別トップレベルドメイン名(ccTLD)である。.FMは、FMラジオ放送の「FM」と同綴であることから、同国内の個人、企業以外にも、世界中のラジオ放送関係者に対して積極的に販売されており、ドコデモFMもこのような背景から.FMを利用したものと考えられる。

.FMの実際の管理運営を行う「レジストリ組織」は、サンフランシスコに拠点をもつBRS Media社である。同社は、.FMの管理運営にあたっては「dotFM」とのブランド名を使用している。同社は、ブランド価値のあるドメイン名をオークションやプレミアム価格で販売していることでも知られるほか、AMラジオ放送を想起させる.AM(アルメニアのccTLD)の管理運営も並行して請け負っている。

.FMのドメイン名登録者情報を登録したWHOISデータベースによれば(2012年10月31日10時40分現在)、docodemo.fmは、2011年10月4日22:23PDT(アメリカ太平洋夏時間)に東京FM名義で取得され、有効期限はその1年後の2012年10月4日22:23PDTまでとなっている。有効期限が1年間なのは、複数年契約を設定変更していない.FMの利用規約によるものである。

さらに、WHOISデータベースには、2012年10月25日(木)09:18PDTにドメイン名の管理情報が変更された記録がある。現在の登録者情報から判断するに、この時変更された可能性がある項目はDNSサーバ情報である。DNSサーバ情報は、docodemo.fmというドメイン名をドコデモFMが実際に使用するサーバのIPアドレスに正しく関連付けるために不可欠な情報だが、これが2012年10月25日(木)09:18PDTの段階でexpired.dot.fmおよびdomain.dot.fmに変更されたと見られる。登録名義人や連絡先など、それ以外の項目は、少なくともWHOISデータベース上は現時点でも東京FMのままである。

expired.dot.fmおよびdomain.dot.fmは、失効アドレスを一時的に保留にするためにdotFMが設定した監理用のサーバ(あるいはダミー)であると思われる。そのために、ドメイン名とIPアドレスの関連付けができず、その結果ドコデモFMアプリケーションがIP再送信を受信することができなくなったものと思われる。

■考察

WHOISの記録を見る限りでは、docodemo.fmの有効期限は本来であれば2012年10月4日22:23PDTに終了していたはずである。通常、ドメイン名の有効期限が終了する前には、更新の案内が1回以上行われる。また、監理ドメイン名に移行したのが2012年10月25日(木)09:18PDTだったとすれば、有効期限の終了後、移行処理までには3週間の猶予期間があったことになる。レジストリ組織としては、事前の意志確認の後、一定の猶予期間を経ても更新の手続きが取られなかったために、ドメイン名の失効処理を進めることになったのだと思われる。

10月30日(火)21:23のドコデモFMの公式アカウントによるツイートでは、docodemo.fmの継続利用のための申請を10月26日に行ったと説明されている。ところが、前述の通り、WHOISデータベースの変更記録を見ると、2012年10月25日(木)09:18PDT、日本時間の10月26日(金)01:18にドメイン名の設定変更が行われたことが確認できる。この変更が、DNSサーバを監理用サーバに変更したことを意味するのだとすれば、docodemo.fmは、この時点ですでに失効処理の対象となっていた、つまり登録者であるドコデモFM側は利用継続申請の権利を喪失していた可能性がある。

仮定に仮定を重ねる議論になりかねないが、仮にこのような手続きを経た上で、dotFMがdocodemo.fmの失効処理に進めたのだとすると、ドメイン名の原状回復は困難だろう。ドメイン名の登録手続きの制定をめぐっては不正利用や、正当な権利者の権利侵害を防ぐことに最大限の配慮が払われてきた。利用規約上、10月26日の時点では、ドコデモFM側はdocodemo.fmについて正当な権利がある状態にはない。dotFMが不用意にドメイン名を元に戻せば、今度はdotFMが正当な手続きによらず恣意的に特定のドメイン名登録者を優遇したとみなされるおそれがある。現時点では第三者にドメイン名が割り当てられたわけではないので、回復は不可能ではないと思われるが、少なくとも弁護士が入らずに解決できる段階ではもはやないのではないだろうか。

■今回の教訓

現時点で、ドコデモFMの障害はまだ解決していないが、今回はスマートフォン時代のドメイン名とアプリケーションプラットフォームに関するいくつかの重大な問題を含んでいる。

ドメイン名の失効によるトラブル自体はそれほど珍しいものではない。1999年にはMicrosoft社のhotmail.comが更新忘れで失効しているほか、国内企業でもソフマップ(当時)のsofmap.comが同じく更新忘れで失効するなどしている。しかし、今回のケースは、そのようなケースとは違う側面がある。それは、docodemo.fmはスマホアプリであり、そのスマホアプリを利用するときにほとんどの利用者はドメイン名を意識しないということである。

ドメイン名とは、本来は、何らかの意味をもったラベル(mnemonic)を数字の羅列にすぎないIPアドレスに割り当てることで、人間の記憶や識別上の利便性を向上しようとしたものである。ウェブページのURLや電子メールのアドレスを考えれば理解できるだろう。しかし、これは、人間の利用者の利便性であって、アプリケーションの背後で行われるサーバとの通信では、ドメイン名であろうとIPアドレスであろうとあまり関係がない。今回のように、機械にとって特にメリットのないドメイン名がサービス障害の原因となるというのは極めて残念なことである。

もっとも、ドメイン名をもつことには、もう一つ管理上の意味がある。それは、サーバの移転など、IPアドレスを技術的な事情で変更しなければならなくなった場合、利用者とドメイン名、ドメイン名とIPアドレスという2層構造にしておくことで、IPアドレスを変更しても、利用者は同じドメイン名を使って引き続きアクセスすることができるなどの利点もある。その点では、サービス提供用のサーバをIPアドレスではなく、ドメイン名を使用することには以前として合理性がある。

その意味では、事業者にとっては、このような事態が発生した時に対応しやすいドメイン名を選択することも必要だろう。.FMはアメリカ企業がその管理運営を行っており、時差や言葉の問題もあるため日本からの問い合わせや依頼に、こちらの期待するようなタイミングで応えてもらえないことも考えられる。

もう一つ、今回の一件で改めて浮き彫りにされたのは、スマートフォンのアプリケーションプラットフォームにける補償の難しさである。今回、ドコデモFMが利用できなくなったことで、事業者側も「補償」を検討したが、アプリケーションプラットフォームの機能上の制限で返金処理ができないため、割引期間を延長するという措置を取らざるをえないと説明された(iTunes Storeの場合)。今回のように利用者には何の責めもない場合も想定されるため、消費者保護の観点からは、課金停止や返金処理への柔軟な対応が今後は求められることになるだろう。また、コンテンツやサービスの提供事業者側からすれば、売り上げのかなりの割合を手数料として徴収されている。利用者と事業者の両方が納得できる水準のサービスがプラットフォーム事業者には期待されて当然だろう。

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