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2005.11.25

Software for Development: Is Free/Open Source Software the Answer?

チュニジアには旅行に行ったわけではなくて、WSISとその関連イベントのために行ったわけなので、もうひとつぐらいセッション参加の記録なども。

国連開発計画(UNDP)のアジア太平洋開発情報計画(APDIP)という組織が今回のチュニスでのサミットではいくつかのパネルやセッションを主催しました(考えてみれば、わたくしが発表したセッションもAPDIPがらみだったな)。その中に、Software for Development: Is Free/Open Source Software the Answer?というのがありました。最近、オープンソースソフトウェアやフリーソフトウェア(スノビッシュにはOSS/FSとかFLOSSとかFOSSとか略す由)がもてはやされすぎ気味なのがわたくし的には気がかりだったので、UNDPや開発経済の専門家の人たちがこの分野をどのように見ているかをのぞいてみようと、このパネル・セッションを傍聴したという次第。

そういう軽い動機で参加したこともあって、タイトルと主催者以外の情報を調べておらず、誰がパネリストなのかすら知らなかったのですが、実はこのセッション、Richard Stallmanが基調講演をすることになっていたのです。それもあってか、セッションは開けてみると大入り満員で、わたくしは席を取ることができず立ち見でした。ところが、立ち見できればいいほうで、わたくしの後ろのほうに立っていた人など、「後ろの出入り口付近の方は、前の出入り口の外から会場をご覧ください。こちらのほうがパネリストの表情がよく分かります」と言われ、追い出されてました。

Richard Stallmanの話は教条主義的で、言ってる内容もいつも同じだし、わざわざ聞く価値ないんだなあ、などと隣にいたフィリピン人の知り合いに話したら、近くにいた全然知らない人に「そうなんだよ!」と受けてた様子。Stallmanの評価が国際的に共通だったことが予期せぬ形で確認できました。しかも、当のStallmanはセッションが始まる前、「俺はこの会場の全員と話をするために来たんだ。個別に話しかけてくるな!」とか、「俺のアルミホイルを持ってこうとしてるやつは誰だ!」などと、ワケ分かんないことを口走ってるし。正直、「やだねー、筋金入りのギークは」と思ったものです。

ところが、さすがStallman、ただの変わり者ではなかったのです。実は会期中、会場に入るためには専用のIDカード(日立のμチップ内蔵)が必要だったのですが、彼はこれを銀紙でくるんでいたのです。曰く、「IDチップは俺たちの行動を追跡して、自由を奪うものなんだよ。だから俺はそれに抗議するために、IDカードをこうやってアルミホイルで巻いているんだ。俺と同じように自由が必要な人は言ってほしい。このアルミホイルを分けるから」と。

さて、つかみはよかったわけですが、話し始めるとしかしやはりStallman。案の定というか、彼は、ソフトウェアにおいて自由(freedom)がなぜ重要なのか、いつものように第一の自由から第四の自由に分けて説き始めました。第一の自由とは、ソフトウェアを動かす自由。第二の自由とは、ソースコードを見て、そのソフトウェアの動きを調べる自由。第三の自由とは、ソースコードを修正して、そのソフトウェアの動きを改変する自由。そして、第四の自由とは、そのソースコードを公表して、コミュニティの発展に貢献する自由というわけです。この辺は、いつものStallman節。聞いていた人の半分は飽きていたに違いありません。

ところで、このセッションのテーマは、"Is Free/Open Source Software the Answer?"だったわけですが、が、Stallmanは基調講演の締めくくりで、"Free and open source software is the only answer."だと言い切りました。商用ソフトウェア(ここでの商用はproprietaryの意味ね)を利用するためには、ライセンスなどの費用が必要ですが、これは開発途上国にとっては決して小さくありません。しかし、それ以上に重要なのは、開発途上国が商用ソフトウェアを使うということは、ソフトウェア・ベンダーへの過剰な依存を招くということだといいます。商用ソフトウェアを使うということは、ソフトウェアの改良やその他の修正をソフトウェア・ベンダーにすべて委ねるということであり、ソフトウェア・ベンダーの許可がなければ何もできないという依存状態を生み出すからです。

もちろん、これは、開発途上国に限られた問題ではありません。しかし、日本のように一定規模以上の経済力をもつ国であれば、市場規模を背景にソフトウェア・ベンダーとの関係はバランスの取れたものになることが期待できます。ところが、開発途上国は、商用ソフトウェアの動向を左右できるほど大きな市場の力をもちません。その結果、開発途上国はソフトウェア・ベンダーへの単純な依存を招き(しかも、ライセンス費用をむしり取られ)、バランスを取ることができないままその依存状態の中にロック・インされてしまうというわけです。Stallmanは、だからこそ、フリー・ソフトウェアやオープン・ソースソフトウェアは途上国の発展にとって不可欠なものなのだと締めくくりました。

実際、このようなロック・インから脱却するためにオープン・ソースを活用した事例もあります。例えば、タイでは、廉価な型落ち部品によるオリジナルブランドのPCを国内メーカーが組み立て、それにタイ語拡張を施したLinuxとOpenOfficeをバンドルして、「Low Cost PC」という製品を作り、250ドルという価格で売り出しました。これは、直接的にはこのような低価格のPCを供給して国内の情報リテラシーを向上させることを目的としたものでした。しかし、それは間接的な効果ももったと言われています。その後、マイクロソフトがそれに追随する形で、WindowsとOfficeの実質上の値下げに踏み切ったからです(この辺は、年内に出るはずの本に書きましたので、そちらをご覧あれ)。大きな市場規模を持たない国にとっては、このような力で商用ソフトウェア・ベンダーとのパワー・バランスを取ることも必要なのかもしれません。

しかし、さすがはStallman。いつもと同じ話のはずなのに、文脈が違うだけでこんなに素晴らしい話に聞こえてしまうのか、と脱帽しました。

ところで、セッションには、キーノート・スピーカーがもう一人と、コメント役のパネリストが4人いました。もう一人のキーノート・スピーカーがソフトウェアの特許と、製薬・バイオ産業向けの特許とが同じ仕組みであるのはよくないので分割すべきだという主張をしていたということと、CompTIAの広報担当副会長が異様な早口で統計データをまくしたて、「高い生産性を有する国はハードウェアだけでなくソフトウェア投資も積極的に行なっている(→だから、商用ソフトウェアにお金を使うということが重要なんだということか?)」と述べて会場内の顰蹙と失笑をかっていたということだけ付け加えておきましょう。あ、ちなみにモデレータはThe Economistの記者であるKen Cukierでした。

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コメント

ストールマンの話をとても面白く拝見。また、オープンソース・ソフトウェアをめぐるホットな話題はとても参考になりました。ご報告ありがとうございました。

投稿: suna | 2005.11.25 07:05

suna様、いつもありがとうございます。ネタはこんな風に小出しにしないで、まとめてきっちり出したほうがいいのかもしれません。すみませぬ。

投稿: kk | 2005.11.25 08:49

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