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2012.10.31

ドコデモFMの障害を機に考える(長文)

【11月2日追記】先日紹介したドコデモFMの障害、結局この長文ポストの数時間後に復旧し始めました。ということで、わたくしの読みは外れました。ただ、今朝確認した段階ではWHOISの情報は有効期限が古いまま。やはり、ドメイン名の更新については、やはり珍しい事態が起きたのではないかと思います。ドメイン名政策の研究なるものをやっている身としては、今回の件、どんな経緯だったのか、やはり興味ありますねー。言い訳っぽいデスが。

昨年スタートしたFMラジオ放送IP同時再送信サービスであるドコデモFMが、先週金曜日(10月26日)から今日で5日間使えない状態が続いています。原因はdocodemo.fmというドメイン名の更新忘れだったようですが、状況を分析するに、もはや「ドメイン名を復活させてください」とお願いして解決する段階ではないのかもしれないなーと思います。となると、docodemo.fmを復活させるよりも、新しいドメイン名を取得して、それに対応したアプリアップデートを配布し直すほうが早いかもしれません。もちろん、ドコデモFMのファンとしては少しでも早く原状復帰してもらいたい気持ちは一杯ですが。

ドメイン名政策の研究をしているドコデモFMの大ファンが勢い余って書いてしまった今回の経緯や背景の分析です。推測に頼った部分も少なくありません。そのことを踏まえてお読みください。

■ドコデモFMとは

ドコデモFMは、スマートフォン向けのFMラジオ放送IP同時再送信サービスである。専用のアプリケーションと、スマートフォンの携帯データ通信や無線LAN通信を利用して、Japan FM Network(JFN)系列約40のFMラジオ局の放送を、広告や時報と一部の番組・内容を除いてほぼそのままの形で聴取できる。

同サービスは、東京FMと同社の子会社のジグノシステムジャパンにより、2011年12月5日に提供が開始された。当初はNTTドコモのスマートフォンだけに対応していたが、現在は携帯電話事業者に関係なく、iPhone/iPod touch/iPad、Android対応端末であれば携帯データ通信または無線LAN通信によって利用できる。初回利用日から31日間は無料で、その後は月額350円(iPhone/iPod touch/iPad)または315円(Android端末)の利用料金がかかる。利用は国内に限られ、海外からは利用できない。

同種のサービスとしてKDDIのLismo Waveがある。Lismo Waveは2011年1月26日にサービスが開始され(月額315円)、ドコデモFMの対象局以外のFM局も聴取できる。また、radiko.jpもラジオ放送のIP同時再送信を行っているが、これは再送信されるのはその地域で受信できる放送局に限定されている。

■障害の内容と経緯

2012年10月26日(金)16時ごろから、ドコデモFMアプリを起動すると、「ネットワークエラー」が表示され、IP同時再送信が聴取できなくなる障害が発生した。同時にドコデモFMのウェブページやメールアドレスも利用できなくなった。

【経緯】


  • 10月26日(金)夕方ごろ、ツイッター上で利用者がドコデモFMアプリが起動しない、などの障害を五月雨式に報告。

  • 10月26日(金)19:14、ツイッターのドコデモFMの公式アカウント(@docodemofm)で、同日16:30頃から19:05頃までの間、ドコデモFMが利用できない状態が発生したが、現在は復旧していると報告された。ただし、ネットワーク環境によっては復旧に時間がかかる可能性があるとも付言された。実際には復旧しておらず、障害は週末を挟んで継続する。

  • 10月28日(日)10:30、サービスの復旧は10月29日(月)の見通しとツイッター上で発表。また、課金済み利用者については何らかの補償をする方向であることを言及。

  • 10月28日(日)11:17、公式アカウントを通じて補償の内容について説明される。iPhone利用者(iPod touch/iPad利用者も同様)については、もともと10月1日から実施中だった月額利用料の割引キャンペーン(350円→85円)を12月27日まで延長すること、Android利用者については、最長12月20日(11月21日以降の初回利用日から31日間無料)まで月額利用料を無料とすることを発表(その後、Android利用者については最長1月2日まで無料にすることを発表)する。また、NTTドコモのコンテンツ決済サービスの利用者については、障害が10月31日正午を超えた場合には11月分の課金をキャンセルできるようNTTドコモと調整する予定であることを発表する。さらに、暫定的な措置としてGoogle Play課金に切り替えた場合、切り替えた日から31日間無料になることを案内する。

  • 10月30日(火)12:23、ツイッター上でドコデモFMの臨時問い合わせ窓口のメールアドレス(info_docodemofm@tfm.co.jp)を公表。

  • 10月30日(火)11:17、サービスが同日11:15の時点で復旧していないとツイッター上で報告。

  • 10月30日(火)21:23、今回の障害の原因が、ドコデモFMで利用していたドメイン名(docodemo.fm)が失効したことであると発表。また、同ドメイン名の利用継続のための申請手続きは10月26日に完了しているが、レジストラの作業が滞っているためにサービスが復旧できないと説明。さらに「同日深夜が復旧の目安だが、確定的なことは言えない」との見通しを示す。

  • 10月30日(火)21:21頃、NTTドコモのコンテンツ決済サービスの利用者はポータル側で課金をキャンセルできるよう調整中であること、Android利用者については無料期間を最長1月2日まで延長することを発表。

  • 10月31(水)17:00現在、同サービスは復旧していない。

なお、ドコデモFMに関する情報提供やサポートはドコデモFM専用のホームページを通じて行われていたが、今回の障害により、ホームページへのアクセスも遮断されてしまったため、サービス提供側にとってもツイッター以外の情報提供手段をもたず、障害関連の情報もツイッターで行われることになった。

■障害の原因

今回の障害は、ドコデモFMのサービス提供に使われていたドメイン名(docodemo.fm)が失効し、ドメイン名からIPアドレスへのドメイン名解決ができなくなったことが直接的な原因である。

.FMとはミクロネシア連邦(Federated States of Micronesia)に対応した国別トップレベルドメイン名(ccTLD)である。.FMは、FMラジオ放送の「FM」と同綴であることから、同国内の個人、企業以外にも、世界中のラジオ放送関係者に対して積極的に販売されており、ドコデモFMもこのような背景から.FMを利用したものと考えられる。

.FMの実際の管理運営を行う「レジストリ組織」は、サンフランシスコに拠点をもつBRS Media社である。同社は、.FMの管理運営にあたっては「dotFM」とのブランド名を使用している。同社は、ブランド価値のあるドメイン名をオークションやプレミアム価格で販売していることでも知られるほか、AMラジオ放送を想起させる.AM(アルメニアのccTLD)の管理運営も並行して請け負っている。

.FMのドメイン名登録者情報を登録したWHOISデータベースによれば(2012年10月31日10時40分現在)、docodemo.fmは、2011年10月4日22:23PDT(アメリカ太平洋夏時間)に東京FM名義で取得され、有効期限はその1年後の2012年10月4日22:23PDTまでとなっている。有効期限が1年間なのは、複数年契約を設定変更していない.FMの利用規約によるものである。

さらに、WHOISデータベースには、2012年10月25日(木)09:18PDTにドメイン名の管理情報が変更された記録がある。現在の登録者情報から判断するに、この時変更された可能性がある項目はDNSサーバ情報である。DNSサーバ情報は、docodemo.fmというドメイン名をドコデモFMが実際に使用するサーバのIPアドレスに正しく関連付けるために不可欠な情報だが、これが2012年10月25日(木)09:18PDTの段階でexpired.dot.fmおよびdomain.dot.fmに変更されたと見られる。登録名義人や連絡先など、それ以外の項目は、少なくともWHOISデータベース上は現時点でも東京FMのままである。

expired.dot.fmおよびdomain.dot.fmは、失効アドレスを一時的に保留にするためにdotFMが設定した監理用のサーバ(あるいはダミー)であると思われる。そのために、ドメイン名とIPアドレスの関連付けができず、その結果ドコデモFMアプリケーションがIP再送信を受信することができなくなったものと思われる。

■考察

WHOISの記録を見る限りでは、docodemo.fmの有効期限は本来であれば2012年10月4日22:23PDTに終了していたはずである。通常、ドメイン名の有効期限が終了する前には、更新の案内が1回以上行われる。また、監理ドメイン名に移行したのが2012年10月25日(木)09:18PDTだったとすれば、有効期限の終了後、移行処理までには3週間の猶予期間があったことになる。レジストリ組織としては、事前の意志確認の後、一定の猶予期間を経ても更新の手続きが取られなかったために、ドメイン名の失効処理を進めることになったのだと思われる。

10月30日(火)21:23のドコデモFMの公式アカウントによるツイートでは、docodemo.fmの継続利用のための申請を10月26日に行ったと説明されている。ところが、前述の通り、WHOISデータベースの変更記録を見ると、2012年10月25日(木)09:18PDT、日本時間の10月26日(金)01:18にドメイン名の設定変更が行われたことが確認できる。この変更が、DNSサーバを監理用サーバに変更したことを意味するのだとすれば、docodemo.fmは、この時点ですでに失効処理の対象となっていた、つまり登録者であるドコデモFM側は利用継続申請の権利を喪失していた可能性がある。

仮定に仮定を重ねる議論になりかねないが、仮にこのような手続きを経た上で、dotFMがdocodemo.fmの失効処理に進めたのだとすると、ドメイン名の原状回復は困難だろう。ドメイン名の登録手続きの制定をめぐっては不正利用や、正当な権利者の権利侵害を防ぐことに最大限の配慮が払われてきた。利用規約上、10月26日の時点では、ドコデモFM側はdocodemo.fmについて正当な権利がある状態にはない。dotFMが不用意にドメイン名を元に戻せば、今度はdotFMが正当な手続きによらず恣意的に特定のドメイン名登録者を優遇したとみなされるおそれがある。現時点では第三者にドメイン名が割り当てられたわけではないので、回復は不可能ではないと思われるが、少なくとも弁護士が入らずに解決できる段階ではもはやないのではないだろうか。

■今回の教訓

現時点で、ドコデモFMの障害はまだ解決していないが、今回はスマートフォン時代のドメイン名とアプリケーションプラットフォームに関するいくつかの重大な問題を含んでいる。

ドメイン名の失効によるトラブル自体はそれほど珍しいものではない。1999年にはMicrosoft社のhotmail.comが更新忘れで失効しているほか、国内企業でもソフマップ(当時)のsofmap.comが同じく更新忘れで失効するなどしている。しかし、今回のケースは、そのようなケースとは違う側面がある。それは、docodemo.fmはスマホアプリであり、そのスマホアプリを利用するときにほとんどの利用者はドメイン名を意識しないということである。

ドメイン名とは、本来は、何らかの意味をもったラベル(mnemonic)を数字の羅列にすぎないIPアドレスに割り当てることで、人間の記憶や識別上の利便性を向上しようとしたものである。ウェブページのURLや電子メールのアドレスを考えれば理解できるだろう。しかし、これは、人間の利用者の利便性であって、アプリケーションの背後で行われるサーバとの通信では、ドメイン名であろうとIPアドレスであろうとあまり関係がない。今回のように、機械にとって特にメリットのないドメイン名がサービス障害の原因となるというのは極めて残念なことである。

もっとも、ドメイン名をもつことには、もう一つ管理上の意味がある。それは、サーバの移転など、IPアドレスを技術的な事情で変更しなければならなくなった場合、利用者とドメイン名、ドメイン名とIPアドレスという2層構造にしておくことで、IPアドレスを変更しても、利用者は同じドメイン名を使って引き続きアクセスすることができるなどの利点もある。その点では、サービス提供用のサーバをIPアドレスではなく、ドメイン名を使用することには以前として合理性がある。

その意味では、事業者にとっては、このような事態が発生した時に対応しやすいドメイン名を選択することも必要だろう。.FMはアメリカ企業がその管理運営を行っており、時差や言葉の問題もあるため日本からの問い合わせや依頼に、こちらの期待するようなタイミングで応えてもらえないことも考えられる。

もう一つ、今回の一件で改めて浮き彫りにされたのは、スマートフォンのアプリケーションプラットフォームにける補償の難しさである。今回、ドコデモFMが利用できなくなったことで、事業者側も「補償」を検討したが、アプリケーションプラットフォームの機能上の制限で返金処理ができないため、割引期間を延長するという措置を取らざるをえないと説明された(iTunes Storeの場合)。今回のように利用者には何の責めもない場合も想定されるため、消費者保護の観点からは、課金停止や返金処理への柔軟な対応が今後は求められることになるだろう。また、コンテンツやサービスの提供事業者側からすれば、売り上げのかなりの割合を手数料として徴収されている。利用者と事業者の両方が納得できる水準のサービスがプラットフォーム事業者には期待されて当然だろう。

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