2012.10.31

ドコデモFMの障害を機に考える(長文)

【11月2日追記】先日紹介したドコデモFMの障害、結局この長文ポストの数時間後に復旧し始めました。ということで、わたくしの読みは外れました。ただ、今朝確認した段階ではWHOISの情報は有効期限が古いまま。やはり、ドメイン名の更新については、やはり珍しい事態が起きたのではないかと思います。ドメイン名政策の研究なるものをやっている身としては、今回の件、どんな経緯だったのか、やはり興味ありますねー。言い訳っぽいデスが。

昨年スタートしたFMラジオ放送IP同時再送信サービスであるドコデモFMが、先週金曜日(10月26日)から今日で5日間使えない状態が続いています。原因はdocodemo.fmというドメイン名の更新忘れだったようですが、状況を分析するに、もはや「ドメイン名を復活させてください」とお願いして解決する段階ではないのかもしれないなーと思います。となると、docodemo.fmを復活させるよりも、新しいドメイン名を取得して、それに対応したアプリアップデートを配布し直すほうが早いかもしれません。もちろん、ドコデモFMのファンとしては少しでも早く原状復帰してもらいたい気持ちは一杯ですが。

ドメイン名政策の研究をしているドコデモFMの大ファンが勢い余って書いてしまった今回の経緯や背景の分析です。推測に頼った部分も少なくありません。そのことを踏まえてお読みください。

■ドコデモFMとは

ドコデモFMは、スマートフォン向けのFMラジオ放送IP同時再送信サービスである。専用のアプリケーションと、スマートフォンの携帯データ通信や無線LAN通信を利用して、Japan FM Network(JFN)系列約40のFMラジオ局の放送を、広告や時報と一部の番組・内容を除いてほぼそのままの形で聴取できる。

同サービスは、東京FMと同社の子会社のジグノシステムジャパンにより、2011年12月5日に提供が開始された。当初はNTTドコモのスマートフォンだけに対応していたが、現在は携帯電話事業者に関係なく、iPhone/iPod touch/iPad、Android対応端末であれば携帯データ通信または無線LAN通信によって利用できる。初回利用日から31日間は無料で、その後は月額350円(iPhone/iPod touch/iPad)または315円(Android端末)の利用料金がかかる。利用は国内に限られ、海外からは利用できない。

同種のサービスとしてKDDIのLismo Waveがある。Lismo Waveは2011年1月26日にサービスが開始され(月額315円)、ドコデモFMの対象局以外のFM局も聴取できる。また、radiko.jpもラジオ放送のIP同時再送信を行っているが、これは再送信されるのはその地域で受信できる放送局に限定されている。

■障害の内容と経緯

2012年10月26日(金)16時ごろから、ドコデモFMアプリを起動すると、「ネットワークエラー」が表示され、IP同時再送信が聴取できなくなる障害が発生した。同時にドコデモFMのウェブページやメールアドレスも利用できなくなった。

【経緯】


  • 10月26日(金)夕方ごろ、ツイッター上で利用者がドコデモFMアプリが起動しない、などの障害を五月雨式に報告。

  • 10月26日(金)19:14、ツイッターのドコデモFMの公式アカウント(@docodemofm)で、同日16:30頃から19:05頃までの間、ドコデモFMが利用できない状態が発生したが、現在は復旧していると報告された。ただし、ネットワーク環境によっては復旧に時間がかかる可能性があるとも付言された。実際には復旧しておらず、障害は週末を挟んで継続する。

  • 10月28日(日)10:30、サービスの復旧は10月29日(月)の見通しとツイッター上で発表。また、課金済み利用者については何らかの補償をする方向であることを言及。

  • 10月28日(日)11:17、公式アカウントを通じて補償の内容について説明される。iPhone利用者(iPod touch/iPad利用者も同様)については、もともと10月1日から実施中だった月額利用料の割引キャンペーン(350円→85円)を12月27日まで延長すること、Android利用者については、最長12月20日(11月21日以降の初回利用日から31日間無料)まで月額利用料を無料とすることを発表(その後、Android利用者については最長1月2日まで無料にすることを発表)する。また、NTTドコモのコンテンツ決済サービスの利用者については、障害が10月31日正午を超えた場合には11月分の課金をキャンセルできるようNTTドコモと調整する予定であることを発表する。さらに、暫定的な措置としてGoogle Play課金に切り替えた場合、切り替えた日から31日間無料になることを案内する。

  • 10月30日(火)12:23、ツイッター上でドコデモFMの臨時問い合わせ窓口のメールアドレス(info_docodemofm@tfm.co.jp)を公表。

  • 10月30日(火)11:17、サービスが同日11:15の時点で復旧していないとツイッター上で報告。

  • 10月30日(火)21:23、今回の障害の原因が、ドコデモFMで利用していたドメイン名(docodemo.fm)が失効したことであると発表。また、同ドメイン名の利用継続のための申請手続きは10月26日に完了しているが、レジストラの作業が滞っているためにサービスが復旧できないと説明。さらに「同日深夜が復旧の目安だが、確定的なことは言えない」との見通しを示す。

  • 10月30日(火)21:21頃、NTTドコモのコンテンツ決済サービスの利用者はポータル側で課金をキャンセルできるよう調整中であること、Android利用者については無料期間を最長1月2日まで延長することを発表。

  • 10月31(水)17:00現在、同サービスは復旧していない。

なお、ドコデモFMに関する情報提供やサポートはドコデモFM専用のホームページを通じて行われていたが、今回の障害により、ホームページへのアクセスも遮断されてしまったため、サービス提供側にとってもツイッター以外の情報提供手段をもたず、障害関連の情報もツイッターで行われることになった。

■障害の原因

今回の障害は、ドコデモFMのサービス提供に使われていたドメイン名(docodemo.fm)が失効し、ドメイン名からIPアドレスへのドメイン名解決ができなくなったことが直接的な原因である。

.FMとはミクロネシア連邦(Federated States of Micronesia)に対応した国別トップレベルドメイン名(ccTLD)である。.FMは、FMラジオ放送の「FM」と同綴であることから、同国内の個人、企業以外にも、世界中のラジオ放送関係者に対して積極的に販売されており、ドコデモFMもこのような背景から.FMを利用したものと考えられる。

.FMの実際の管理運営を行う「レジストリ組織」は、サンフランシスコに拠点をもつBRS Media社である。同社は、.FMの管理運営にあたっては「dotFM」とのブランド名を使用している。同社は、ブランド価値のあるドメイン名をオークションやプレミアム価格で販売していることでも知られるほか、AMラジオ放送を想起させる.AM(アルメニアのccTLD)の管理運営も並行して請け負っている。

.FMのドメイン名登録者情報を登録したWHOISデータベースによれば(2012年10月31日10時40分現在)、docodemo.fmは、2011年10月4日22:23PDT(アメリカ太平洋夏時間)に東京FM名義で取得され、有効期限はその1年後の2012年10月4日22:23PDTまでとなっている。有効期限が1年間なのは、複数年契約を設定変更していない.FMの利用規約によるものである。

さらに、WHOISデータベースには、2012年10月25日(木)09:18PDTにドメイン名の管理情報が変更された記録がある。現在の登録者情報から判断するに、この時変更された可能性がある項目はDNSサーバ情報である。DNSサーバ情報は、docodemo.fmというドメイン名をドコデモFMが実際に使用するサーバのIPアドレスに正しく関連付けるために不可欠な情報だが、これが2012年10月25日(木)09:18PDTの段階でexpired.dot.fmおよびdomain.dot.fmに変更されたと見られる。登録名義人や連絡先など、それ以外の項目は、少なくともWHOISデータベース上は現時点でも東京FMのままである。

expired.dot.fmおよびdomain.dot.fmは、失効アドレスを一時的に保留にするためにdotFMが設定した監理用のサーバ(あるいはダミー)であると思われる。そのために、ドメイン名とIPアドレスの関連付けができず、その結果ドコデモFMアプリケーションがIP再送信を受信することができなくなったものと思われる。

■考察

WHOISの記録を見る限りでは、docodemo.fmの有効期限は本来であれば2012年10月4日22:23PDTに終了していたはずである。通常、ドメイン名の有効期限が終了する前には、更新の案内が1回以上行われる。また、監理ドメイン名に移行したのが2012年10月25日(木)09:18PDTだったとすれば、有効期限の終了後、移行処理までには3週間の猶予期間があったことになる。レジストリ組織としては、事前の意志確認の後、一定の猶予期間を経ても更新の手続きが取られなかったために、ドメイン名の失効処理を進めることになったのだと思われる。

10月30日(火)21:23のドコデモFMの公式アカウントによるツイートでは、docodemo.fmの継続利用のための申請を10月26日に行ったと説明されている。ところが、前述の通り、WHOISデータベースの変更記録を見ると、2012年10月25日(木)09:18PDT、日本時間の10月26日(金)01:18にドメイン名の設定変更が行われたことが確認できる。この変更が、DNSサーバを監理用サーバに変更したことを意味するのだとすれば、docodemo.fmは、この時点ですでに失効処理の対象となっていた、つまり登録者であるドコデモFM側は利用継続申請の権利を喪失していた可能性がある。

仮定に仮定を重ねる議論になりかねないが、仮にこのような手続きを経た上で、dotFMがdocodemo.fmの失効処理に進めたのだとすると、ドメイン名の原状回復は困難だろう。ドメイン名の登録手続きの制定をめぐっては不正利用や、正当な権利者の権利侵害を防ぐことに最大限の配慮が払われてきた。利用規約上、10月26日の時点では、ドコデモFM側はdocodemo.fmについて正当な権利がある状態にはない。dotFMが不用意にドメイン名を元に戻せば、今度はdotFMが正当な手続きによらず恣意的に特定のドメイン名登録者を優遇したとみなされるおそれがある。現時点では第三者にドメイン名が割り当てられたわけではないので、回復は不可能ではないと思われるが、少なくとも弁護士が入らずに解決できる段階ではもはやないのではないだろうか。

■今回の教訓

現時点で、ドコデモFMの障害はまだ解決していないが、今回はスマートフォン時代のドメイン名とアプリケーションプラットフォームに関するいくつかの重大な問題を含んでいる。

ドメイン名の失効によるトラブル自体はそれほど珍しいものではない。1999年にはMicrosoft社のhotmail.comが更新忘れで失効しているほか、国内企業でもソフマップ(当時)のsofmap.comが同じく更新忘れで失効するなどしている。しかし、今回のケースは、そのようなケースとは違う側面がある。それは、docodemo.fmはスマホアプリであり、そのスマホアプリを利用するときにほとんどの利用者はドメイン名を意識しないということである。

ドメイン名とは、本来は、何らかの意味をもったラベル(mnemonic)を数字の羅列にすぎないIPアドレスに割り当てることで、人間の記憶や識別上の利便性を向上しようとしたものである。ウェブページのURLや電子メールのアドレスを考えれば理解できるだろう。しかし、これは、人間の利用者の利便性であって、アプリケーションの背後で行われるサーバとの通信では、ドメイン名であろうとIPアドレスであろうとあまり関係がない。今回のように、機械にとって特にメリットのないドメイン名がサービス障害の原因となるというのは極めて残念なことである。

もっとも、ドメイン名をもつことには、もう一つ管理上の意味がある。それは、サーバの移転など、IPアドレスを技術的な事情で変更しなければならなくなった場合、利用者とドメイン名、ドメイン名とIPアドレスという2層構造にしておくことで、IPアドレスを変更しても、利用者は同じドメイン名を使って引き続きアクセスすることができるなどの利点もある。その点では、サービス提供用のサーバをIPアドレスではなく、ドメイン名を使用することには以前として合理性がある。

その意味では、事業者にとっては、このような事態が発生した時に対応しやすいドメイン名を選択することも必要だろう。.FMはアメリカ企業がその管理運営を行っており、時差や言葉の問題もあるため日本からの問い合わせや依頼に、こちらの期待するようなタイミングで応えてもらえないことも考えられる。

もう一つ、今回の一件で改めて浮き彫りにされたのは、スマートフォンのアプリケーションプラットフォームにける補償の難しさである。今回、ドコデモFMが利用できなくなったことで、事業者側も「補償」を検討したが、アプリケーションプラットフォームの機能上の制限で返金処理ができないため、割引期間を延長するという措置を取らざるをえないと説明された(iTunes Storeの場合)。今回のように利用者には何の責めもない場合も想定されるため、消費者保護の観点からは、課金停止や返金処理への柔軟な対応が今後は求められることになるだろう。また、コンテンツやサービスの提供事業者側からすれば、売り上げのかなりの割合を手数料として徴収されている。利用者と事業者の両方が納得できる水準のサービスがプラットフォーム事業者には期待されて当然だろう。

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2011.10.06

iPhone取り扱い事業者のシェア(iPhone 3G発売の頃)

Iphone

iPhone 4Sが登場するとか、auもiPhoneの取り扱いをするとかって聞いて、そう言えば、iPhone 3Gが販売された時、各国のiPhone取り扱い通信事業者について調べたことがあったことを思い出しました。これを見ると、ソフトバンクはiPhone取り扱い通信事業者としては最小規模だったんですね。また、意外にも少なからぬ(というか大半の)国では、複数事業者がiPhoneを取り扱ってました(オーストラリアなんて、もう、主要3社で取り扱い)。

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2011.09.15

The privatization of domain name administration...

何年か前に不採択になったアブストラクトを発見。もったいないので、こちらに貼っておく。

The privatization of domain name administration initiated more-than-a-decade long discussion on who should operate the domain name system and the rest of the Internet and how, which now forms a critical component of what is known as Internet governance today. In this sense, domain name administration is what Internet governance is all about.

The country-code top-level domain, or ccTLD, among other concerns, presents a unique perspective on Internet governance, since it is operated as if each ccTLD is a sovereign entity and enjoys a considerable degree of independence and self-determination.

However, as the new Affirmation of Commitments states it, the Internet is 'a single and interoperable network', and what is good to some part of the Internet may not necessarily be that way to the rest. In principle, the managers of the ccTLD are requested to "perform a public service on behalf of the Internet community".

The author has conducted a comprehensive survey on how ccTLDs are operated across the Internet, and, in particular, how ccTLDs are structured, priced and utilized. The result of the survey brought about several findings. ccTLD registration fees in nominal terms tend to concentrate towards a specific price point (approximately US$50). But what they mean in real terms to local registrants vary depending on the income level. The registration fee and the number of domain names seem to be correlated even if the correlation coefficient is not strong.

When this correlation is examined more closely, one may find out that correlation between price and domain name usage is slightly higher in high-income ccTLDs than in low-income ccTLDs. One interpretation of this is that as domain name market develop, domain names are marketed to the local community while when domain name market is less developed, domain names tend to be marketed to external community with more purchasing power. In the longer term, however, those ccTLDs who are now serving more to international registrants will need to serve domestic registrants once the market has developed. For this concern, they will need to ensure there are open, i.e. unregistered, names available to domestic registrants.


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2010.03.31

オーストラリアのブロードバンド公社……日本は何か学ぶべきなのか

勤め人であるところのわたくしは、こんなことを考えたりもしてます。いずれ職場のウェブに載ったりすると思いますが、先行リリース。

2009年4月、オーストラリアのラッド政権は、全国をカバーするブロードバンド網(NBN)を政府が設立する公社によって整備する計画を発表した。後に、NBN Coと名付けられるこの公社(形態としては政府が全額出資する株式会社)は、オーストラリアの90%の利用者に対して光ファイバーで100Mbps、そし て残り10%の利用者には無線や衛星通信などの代替技術で12Mbpsの速度のブロードバンドサービスを提供することを目標としている。

日本をはじめ、世界では民間の通信事業者が中心となってブロードバンドネットワークの整備の取り組みが進められている。同時に、民間主導で あるがゆえに、投資回収の問題、敷設したネットワークの開放の是非の問題が少なからず残る。そのために、取り組みがなかなか進まないことも現実である。このような現実を横目に、政府が「公社」によって全国にブロードバンド網を張りめぐらせるというのは、非常に画期的なものであるように映ったことだろう。

オーストラリアで1996年から2007年まで続いた自由党と国民党によるハワード政権は、電気通信政策における「ライトタッチ」アプローチの下、ブロードバンド網整備は通信事業者のイニシアティブによってなされるものとして、それほど力を入れてこなかった。一方、2007年12月に11年ぶりに政権を奪還した労働党は、以前より、政府のブロードバンド化への対応を批判し、選挙でも全国ブロードバンド網の整備を公約として掲げてきた。この公約で労働党は、オーストラリアの98%の利用者に対して12Mbpsのサービスを提供する全国ブロードバンド網の整備のために、47億ドルの補助金を投じるとしてきた。

労働党政権が、このようなブロードバンド整備に積極的な公約を掲げた背景には、オーストラリアの電気通信産業の御家事情がある。オーストラリアの電気通信産業は、1996年の電気通信法の改正により、事業規制を極力廃した、競争法ベースの市場主導による規制枠組みを導入した。その中で、電気通信行政の役割は、規制枠組みやユニバーサルサービスの維持といった市場に委ねることのできないものを保護・維持することに限定され、事業者間での問題は、競争法規制の枠組みにしたがって解決することになった。このような「ライトタッチ」と呼ばれる規制の導入によって、消費者がサービスの向上やイノベーションを含む利益を最大限に享受できると期待されたのである。

オーストラリアの電気通信市場では、旧国営事業者の流れを汲むTelstraのほか、旧国際通信事業者の流れを汲むOptusなどの事業者が競合しているが、現在でも加入者ベースで半数以上、収益ベースでは4分の3をTelstraが占めている。固定系のインフラ、特に加入者回線はTelstraがほぼ独占する状況にある。このような環境下にあって、オーストラリアの電気通信の発展は、 Telstraの動きにかかっていると言っても過言ではない。この点で、事業者構成は日本のNTT対競合他社の関係に近いと言えるかもしれない。

ところが、ライトタッチ規制が裏目に出たのが、新しいサービスの導入である。オーストラリアではADSLの導入、光ファイバーの導入のいずれも他に遅れを取った。特に光ファイバー網の構築をめぐる動向は象徴的である。Telstraは2005年11月に、国内主要5都市の400万の顧客に対して 12Mbpsのサービスを提供する光ファイバー網の構想を発表した。その構想を実現する中で、新たに構築されるネットワークに相互接続義務を課すか否かをめぐって、電気通信事業を含む競争規制当局であるオーストラリア消費者・競争委員会(ACCC)との事前調整が行われた。しかし、自社の投資で構築する光ファイバー網を他事業者に開放するのであれば、商業的な水準の相互接続料を得ることが認められるべきであると主張したTelstraと、光アクセス網で独占的な地位を得ることになるTelstraを牽制したいACCCの意見はまとまらず、2006年8月にTelstraは光ファイバー網の計画自体を撤回してしまう。

ラッド政権は、政権公約に掲げた全国ブロードバンド網構築をプロポーザル方式で進めることとし、2008年4月にその手続きを正式に開始した。プロポーザルには、98%の利用者(家庭と事業所)に最低12Mbpsの通信速度を提供するFTTPまたはFTTNネットワークを構築することのほか、全国均一価格を維持すること、他事業者への公平な相互接続を提供すること内容に含まれることが条件となった。プロポーザルの募集の結果、政府は6件の提案を受領した。その中には、数年前に光ファイバー網の構築を撤回したTelstraも当然含まれていた。

しかし、6件のプロポーザルを審査した専門家委員会は、98%の利用者へのサービス提供の実現が確約されていないなどの理由で、早々にTelstraの提案を却下した。また、残りの提案についても専門家委員会は、「いずれの提案も投資効果が期待できない(None of the national proposals offered value for money)」との評価を下した。結局、政府は、選定事業者がいないという異例の事態により、プロポーザル方式によるNBN構築を断念せざるをえなくなったわけである。

冒頭に記した通り、その後、オーストラリア政府は、公社を通じた全国ブロードバンド網の整備を打ち出す。しかし、この計画は、オーストラリアのこれまでの経緯を考慮すれば、苦肉の策にほかならない。政府主導のブロードバンド網整備に方針を変更したことについて、ラッド首相は「ブロードバンドネットワークの構築は市場に任せるべきという批判はあるかもしれないが、この10年市場に任せてきた結果、結局[オーストラリアにブロードバンドネットワークは誕生しなかった」と発言している。市場主導のブロードバンドの発展が十分な成果を収められなかったからこそ、政府が乗り出す必要があるのだということである。

オーストラリアのブロードバンド公社を理解するには、ブロードバンド構築の担い手を少なくとも2度失うという事態に陥ったオーストラリアの固有の背景を考慮する必要があるだろう。もちろん、担い手の不在だけが、「公社」による全国ブロードバンド網(NBN)を目指す理由ではなく、この点については改めて述べる機会を得たいと思うが、少なくともやる気と実績のある事業者がいる日本に、まったくその反対とも言えるオーストラリアでの試みがどの程度当てはまるかは慎重に考えてみる価値があるだろう。

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2010.03.24

日本インターネットドメイン名協議会事務局御中

近く正式にccTLD(国別トップレベルドメイン。例えば.JPとか.KRといったドメイン名の最上位に来るドメインのうち、国や地域に対して割り当てられるドメイン)に、アルファベット以外の文字が使えるようになります。すでに「ドメイン名.jp」のようなドメイン名は使用できるようになっていたわけですが、これに加えて「ドメイン名.日本」のようなドメイン名が使用可能になるということです。

で、日本語ccTLDを導入するにあたっては、総務省から管理運営事業者の選定の依頼を受けた日本インターネットドメイン名協議会が先週金曜日(3/23)を締め切りに選定基準(案)についての意見募集を行っていました。

この数年、長岡技術科学大学の先生たちと共同でccTLDの研究をしていたところでもあったので、その成果を踏まえて、わたくしも意見書を提出しました。提出された意見書は協議会が公表するそうなので、こちらでも公表しておきます。

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2008.11.12

「部下は上司を選べばれへん。けど、上司は部下を殴られへん」

……昨日の昼食時、わたくしの隣の席で同僚(部下か?)と職場の人間関係について話をしていた年長の男性が席を立つ間際に言った言葉。

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2007.07.02

Unauthorized translation of the draft report by the Roundtable on network neutrality

For those who are interested in the course of discussion on network neutrality in Japan, here is unauthorized translation of the draft report (sorry, chapter 5 only) by the Roundtable on Network Neutrality hosted by the Ministry of Internal Affairs and Communications.

You should note that the discussion goes far beyond free-riding of flat-rate, broadband network, and considerable attention is paid to the network neutrality of NGN. The report is an interim report, and the Roundtable will finalise their conclusion by summer in 2008.

Chapter 5: Desirable direction of policy development

Network neutrality will ensure consumers basic rights to choose their network freely with adequate cost and to create and enjoy necessary content. The telecommunications authorities should consider network neutrality as one of the basic perspectives of broadband policy.

It is necessary to ensure two types of fairness to establish network neutrality. One is to ensure fairness for network use and the other is to ensure fairness for cost sharing. To consider these, a clear distinction should be made between next generation network, which means managed IP network constructed by telecommunications carriers and the Internet as we see it.

The issue of network neutrality contains a wide range of problems. As market structure changes drastically, the government may prevent the Internet from sound development if it tries to implement policies to ensure network neutrality too rigidly. To avoid that, it is desirable to formulate a checklist in order to ensure these two types of fairness based on the principle of network neutrality, and to develop policy in accordance with the checklist, focusing on achieving consensus among relevant parties. Followings are the important points for further discussion:

Draft roadmap to ensure network neutrality:

  • Fairness for cost sharing of network (response to network congestion)
    • Demonstration experiment of P2P-based content dissemination technology
    • Formulation of guidelines for bandwidth control
    • Study on QoS authentication of ISPs
    • Environment coordination for enabling smooth content dissemination (Improvement of regional IXs)
    • Elaboration of internet traffic monitoring
    • Improvement of dispute resolution mechanisms including ADR
  • Fairness for network use (prevention of the abuse of dominant powers)
    • Formulating rules for interconnection, related to next-generation network (NGN) of NTT East and West.
    • Review of the designated telecommunications facility rules ("dominant regulation")
    • Others
  • Promotion for diversity of access network
    • Review of legislation, which is applicable to new business models
    • Study for consumer protection measures
    • Review of terminal equipment regulation
    • Ensuring openness for platform function of authentication and billing
    • Contribution to ensure harmonization with international regulation
Network neutrality is considered to be one of the basic priciples in competition policy. Thus, when the government periodically review the "New Competition Promotion Programme 2010," the principle of network neutrality should be viewed as one of the basic perspectives and the content of checklist should be included in the programme.

Further concrete policy development should be discussed at the second phase of this roundtable, considering the openness of platform functions and further market integration with the existence of network neutrality. By summer in 2008, the outcomes of the discussion would be sorted out. Japan should examine its comprehensive Internet strategy, including competition policy, industry policy and international strategy, from multiple points of view.

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2006.11.05

インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)

Dsc0021810月30日から11月2日まで開かれたインターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)に出席するため、ギリシャのアテネに行きました。IGFは昨年チュニスで開かれた世界情報社会サミット(WSIS)で開催が発表されたマルチ・ステークホルダーの対話の場です。会議という位置づけではないので、決議も勧告も提言もありません。それでも世界中から1,300人もの参加者がIGFに集まりました。日本からは経団連の代表団(野村総研の村上理事長が団長)や、市民コンピュータコミュニケーション研究会(JCAFE)などの方が参加され、頭数で言うと結構な人数でした。

Openness、security、diversity、accessをそれぞれテーマにした4つのメイン・セッションがあり、わたくしはdiversityに関するメイン・セッションのパネルとして発言してきました。多様性と言っても、言語的多様性が中心で、わたくしもソフトウェアの多言語化の必要性について手短に思うところを述べました。

あと、かなりの時間が国際化ドメイン名(iDN)のことに費やされたのですが、こちらについては個人的には利用者がどの程度望むものなのかがさっぱり分からない(必要である「はずだ」と主張する人はたくさんいるけれど、本当に利用者が望んでいるかがよく分からない)ので、「日本ではそもそもURLとかドメイン名を直接叩く機会が減っていて、その代わり、特定のサイトに行くにも検索エンジンを使うことが増えてますよ」ということと、「でも、そうすると検索エンジンのガバナンスを考えていく必要があります」ということを述べました。検索エンジンのガバナンスというのは、これからとても重要になっていくと思うけど、ごく限られた人を除いては関心をもつ人がいなかったようです。

IGF自体の評価については難しいところです。会議としてみれば、具体的な決議や勧告があったわけではない(そういうのが必要だと発言する人はたくさんいた)のが弱みとも言えるでしょうが、継続的にマルチ・ステークホルダーによる対話の場を設ける試みの最初のステップとしては画期的なのかもしれません。すでに第2回のIGFが2007年11月12日からブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催されることが決まっていますし、その後エジプト、インドでそれぞれ2008年、2009年の会合が開かれることになっています。早くも個人的には、この10年間のINETみたいなことになるのではないかという予感がしています。いや、そうならないようにはどうしたらいいかを考えることが必要なんだろうけど。

ところで、会議期間中、JCAFEの方にインタビューを受けました。それをもとにした記事がIGF現地レポートで読めます。こちらもご参照あれ。

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2006.10.05

時差ボケする暇もない

このふた月というもの、職場の環境が大きく変わり、それもあってか体調を崩したり、散々な日々でした。でも、その間もオーストラリアとアメリカに行っていたりしたのです。

オーストラリアに行ったのは先月初め。「定点観測」的にやっているブロードバンド政策と、ブロードバンドサービスの普及の調査でした。この目的で初めて行ったのが2002年8月。この時はもう「ブロードバンド? 誰かそんなの使いたがってるのかなあ」って調子でした。次に行ったのがその2年後の2004年8月。このときは、雰囲気も随分変ってました。当地のDCITA(通信・情報技術・文化省)でミーティングをセットしてもらったら、関係者が総勢15名ぐらいやってきて面食らったのを思い出します。

Dsc00203して、2006年9月。今回の反応はほどほどでした。特筆すべきは民営化が進むTelstraが「開放しろって言うなら、光ファイバー引くのやめんぞ。おい」と言い出したところでしょうか。まあ、それにもちょっとしたニュースの裏がある由。ちなみに、Telstra。「テストラ」と間違う人が後を絶ちませんが、正しくは「テストラ」です。

次いで、ちょうど先週末を挟む格好で、アメリカはワシントンに行ってきました。9月29日から10月1日まで開かれた情報通信政策研究会議(TPRC)という会議に参加しに。会議では最近話題になっている「ネットワーク中立性」の議論に注目していたのですが、ある意味、日米の温度差を感じて帰ってきました。印象を述べると、アメリカの議論は一巡してしまったというところでしょうか。

さて、10月3日の昼過ぎに成田に着き、その足で今度は幕張へ。CEATEC開催中の幕張メッセの近所のホテルで開催された「アジア情報技術フォーラム(AFIT)」に参加するためです。翌朝には一般セッション(Policy Session)にモデレータとして出席し、アジア地域の19か国が共同して情報通信分野の協力事業をどう進めるか、という壮大なテーマについての議論をしました。さらにその足で非常勤に行ったり。まさに時差ボケしてる暇もありません。

写真は、何度見ても美しく、何度見ても飽きないシドニーのハーバー・ブリッジ。画質があまりよくないのが悔やまれます。

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2006.07.02

NRT-JFK-GRU-CGH-SDU-CGH-GRU-JFK-NRT

ブラジルより昨日はるばる帰って参りました。サンパウロからニューヨークまで9時間、ニューヨークから成田まで13時間。JFKでのトランジットの時間を入れると、サンパウロでのドア・クローズから成田でのドア・オープンまで25時間近くかかったことになります。機内食が都合4回出ます。しかも、機内はほぼ満席。結構需要があるものなのですね(まあ、VARIGが経営破綻で運休中ってこともあるのかな)。

今回のブラジル出張は二つ目的がありました。一つはiSummit '06というイベントに出席すること。もう一つは、この機会にブラジルのインターネットや情報通信の動向について専門家の話を聞いてくるということでした。

Dsc00129iSummit '06は、ひと言で要約すれば、クリエイティブ・コモンズのためのイベントだったのですが、今回のこの会議では、科学技術知識へのオープン・アクセスや、伝統的知識と文化遺産のような関連トピックも積極的に取り扱われていたり、クリエイティブ・コモンズを使った創作活動に関する議論が積極的になされていたり、と、昨年のiSummitと比べると極めて意欲的な内容でした。むしろ、クリエイティブ・コモンズの話があまり出てこなかった気がするぐらい。写真はハイファ大学(イスラエル)のElkin-Koren教授。曰く、クリエイティブ・コモンズが提唱するカスタマイズ可能な'Some Rights Reserved'という発想は、著作者による著作権のコントロールを過度に強調することになりかねず、その場合、本来クリエイティブ・コモンズが目指した自由な著作物の流通と共有という理念を妨げかねない、と。

もう一つの目的であるブラジルのインターネットと情報通信の動向の調査ですが、こちらは高等教育機関向けネットワークの運営組織であるRNP、FGVロースクール、JETROサンパウロ事務所、インターネット運営委員会(CGI.br)、KDDIブラジル、無料ISPのOrolix、サンパウロ大学コンピュータ科学科、サンパウロ大学日本語学科、NTTブラジル、といったところで、通信政策研究や通信ビジネスに身を置いている人を中心に話を聞いてきました。サンパウロ大学日本語学科では、大学時代のツテで期末試験が終わったばかりの学生を(半ば無理矢理)集めてもらって、若者から見たインターネットのことなどを聞かせてもらいました。

標題のNRT-JFK-GRU-CGH-SDU-CGH-GRU-JFK-NRTは今回利用した空港の3レター・コードを利用した順番に並べたもの。マニアックですみません。

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